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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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ウェアラブル端末で早期診断

  スマホの普及は著しく、電車に乗って周囲を見わたせば誰もが頭を傾けてスマホに夢中です。歩きスマホも社会的問題となっています。しかしスマホの利便性は実に大きく、しかも医学的にも用いられようとしています。
 アップル社製のスマートウオッチには、不整脈を感知する機能がありこれが心房細動(以下AFと略称)早期発見につながることをスタンフォード大学が実証しました。2017年11月から約8ヶ月、41万人を対象にした実験で2,161人に不整脈が遠隔受診されました。このうち945人がビデオ機能を用いて不整脈と確認され、ECGパッチ(日本では使用されていない、簡易心電図のようなもの)が658人に配布され、正確に記録された450人が対象として調査されました。不整脈の2,161人中65歳以上が35%、男女比は3:1でした。ECGパッチ解析では34%がAFと診断されました。
ところでAFとはどんな病気でしょうか。本来心臓は洞房結節に信号発生装置があり、信号が心臓全体に伝播して規則的な脈をうちますが、AFは信号の伝わりがうまくいかず心房と心室がバラバラな動きをする病気です。困ったことに心室のなかに血栓ができるとそれが脳に飛び、心源性脳梗塞を起こすことがあります。あの長嶋茂雄氏や西城秀樹氏がかかった病気です。治療は血栓予防薬を内服することで脳梗塞を予防しますが、カテーテルを挿入して不整脈のもとを断つアブレーションという治療もあります。
 2,161人中確実に不整脈ありとされた1,376人中28%に薬物療法が施行されたそうです。AFは生活習慣病検診で聴診上不整脈ありとされた方が、心電図検査をうけて発見されることが多い病気です。みなさんもぜひ気をつけていただきたい病気です。
(文責 若杉直俊) 

解離性同一性障害

 2018年年4月 東京高等裁判所で30歳代の女性の刑事裁判が行われました。窃盗罪で起訴された被告は、犯行時責任能力なしとして本来の罪に問われませんでした。その理由が表記の解離性同一性障害(DID)だったのです。
 「ジキル博士とハイド氏」(スティーブンソン著)をごぞんじでしょうか。一人の人間のなかに二人の人格があり、全く別の行動をおこす人物を描いた小説です。今回の裁判では、被告が本来の人格と異なる状態で30万円以上の品物の窃盗を働いたと勘案されて、求刑どおりに量刑されなかったようです。もちろん二審の結果ですから、検察が控訴して逆転する可能性もあります。
 DIDの話をきくことはあっても、実際に遭遇することはまれかもしれません。しかし、精神科医にきくと今回のようなケースは別として、そこそこみかけるようです。家庭内や友人間の問題で疎外されて、非現実的な夢の世界にとびこみ安住を求める例など、みなさんもかつて経験しなかったでしょうか。
 精神科医は、もし患者さんをDIDと診断した場合「ワークスルー」という手法で治療します。それは、抑圧された葛藤に対して解釈を行い、洞察を深め現実から逃避する人格を打ち消していく方法です。その治療の間には逃避といって治療者の解釈を否定し自らを守ろうとする防御反応も激しく出現します。
 おそらくこの被告も、精神科医療をうけながら再犯を防ぐことになるでしょう。しかし司法の場でDIDが量刑に考慮されることは画期的とされています。
(文責 院長 若杉直俊)

読み書きの障害

 ディスレキシアという発達障害があります。学習障害のひとつで、はじめから字が書けないあるいは、読めるけれども書けないといったものです。我が国では漢字・ひらがな・カタカナを用いますが、その出現頻度はひらがな(読字0.2% 書字1.6%)カタカナ(読字1.4% 書字3.8%)に比べ漢字は6-7%と高いもののその機序はまだ不明です。(Reading and Writ 2009:22:755)
 大阪医大 畑中マリ氏によると、漢字書字困難を訴える児では漢字の筆順が一般的ではない、あるいは一定でない症例が多いことを報告しています。対象は小学4-6年生の日本人38人で、定型発達が23人、発達障害が15人でした、漢字書字能力について「小学生の読み書きスクリーニング検査(STRAW)」を行い漢字書字検査(zスコア)、漢字筆順の定着水準については漢字模写課題を行い検討しています。
 その結果、漢字書字成績と漢字の筆順正答率との間に優位な正の相関があり、すなわち正しく漢字を書くことで、正確な筆順が定着することを示唆しています。小学校の国語の授業では、正確な筆順を指導されますがそれには根拠があったのです。それに対してカタカナと書字には明確な相関性はみられていません。したがって、畑中氏はひらがな、カタカナと漢字では関与する脳機能が異なる可能性を示唆しています。
 これからは筆者の想像ですが、米系おもちゃ販売店トイザらスのカンバンでRの文字が反転して、こどものほほえましさを出していますが、この書字障害は日本人の仮名文字の障害と共通するのではないでしょうか。日本人のローマ字の書字障害の研究はさらに少ないようです。(文責 院長 若杉直俊)

禁煙のアプローチ

 健康増進法で、衆人のなかでの喫煙が法律でしばられていますが、なかなか禁煙までいたらないのが現状です。自民党で検討されている受動喫煙禁止法も、店舗の面積に制限を設ける骨抜きが問題視されています。労働者が働く事業所でも、2015年6月1日から受動喫煙防止が事業者の努力義務となりましたが、まず喫煙者の意識が改革されない現状ではなかなか進んでいないようです。
 浜松医大社会医学講座の中村准教授は、喫煙者の心理面(Health Locus of Control)に着目した新たな禁煙支援の取り組みを提唱しています。「いつかは禁煙したいと考えている人に対する禁煙支援は、健康以外の側面からのアプローチが重要」と述べています。
 Locusof Control(LOC)とは、行動を統御する意識の所在(原因が自己にあるか他者にあるかを求める考え方)のことで、心理学の領域では有効な概念とされています。日本人の健康行動に関する帰属傾向を測定するものとして、日本語版HLC尺度も開発されています。
 中村先生は、浜松市内の事業所で194名にアンケートを採り、喫煙状況(①吸っていない②吸っていたがやめた③吸っている)と喫煙者の意思(aできればすぐにやめたいbいつかは禁煙したいc禁煙したくない)を訪ね、25項目の日本版HLCのうちの5項目(1.健康でいられるのは、自分次第 2.健康でいるためには、自分で自分に気配りすること 3.病気がよくなるかどうかは、自分次第 4.自分の健康は、自分で気をつける 5.病気が良くなるかどうかは、自分の努力次第だ)を思わないからそう思うまで6段階で自己評価させて、相関を取りました。
 喫煙者(61人33%)のうち、a出来ればすぐ(9%)bいずれ禁煙したい(61%)が合計70%で、a,b者はHLCの各質問にも3-6点のそう思うに回答が多くあり、特にa群はHLCの合計点も優位に高かったそうです。なかなか禁煙外来に行きにくい人にも、べつのアプローチたとえばインセンティブの付与・職場の環境対策などで、禁煙がはかれる可能性を述べています。(文責 院長 若杉直俊)

新型タバコは有害?無害?

 最近目にするのが、新型タバコ。煙も少なく周囲にはあまり迷惑をかけないようですが、健康にはどうなのでしょうか。
 日本呼吸器学会は、10月31日ホームページで「非燃焼・加熱式たばこや電子式タバコに関する見解」を発表しました。それによると、「従来の燃焼式タバコに比べてタール(タバコ煙中の有害物質のうちの粒子成分)が削減されてはいるものの、依存物質であるニコチンやその他の有害物質を吸引する製品」であるとし、「使用者にとっても、受動喫煙さらされる人々にとっても、非燃焼・加熱式たばこや電子タバコは推奨できない」との見解を示しました。
呼吸器学会がこのような見解を表明したいきさつは、日本における新型タバコの急速な普及があります。実は新型タバコの有害性に関しては、まだ明らかなエビデンスはありません。しかし、徐々に下がってきた喫煙率がこのタバコの登場により、再び増加することは決して好ましいものではありません。学会の総意としては、「体内に有害物質が取り込まれるのは明らか」であろうとして、多くの愛煙家に警鐘をならしているのです。(文責 院長 若杉直俊)