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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

大腸の遺伝性腫瘍

 このコラムの第1回にアンジェリーナ・ジョリーと乳癌遺伝子のお話をしました。多くの方々から、ほかにも遺伝とガンについて何かあれば教えてください、という要望がありました。そこで今回は、大腸癌にまつわるお話をします。
 この点で有名な疾患が①家族性大腸腺腫症(Familial adenomatous polyposis 以下FAPと略す)と②リンチ症候群でしょう。
 ①FAPの診断は、内視鏡で大腸に100個以上の腺腫があるか、腺腫の数が99個以下でもFAPの家系のある人とされています。FAPの家系は2-3万人に1人に出現し、FAPによる大腸癌は全大腸癌の0.5%未満とされています。遺伝学的検査をすると80%にAPC遺伝子の異常がみられます。またFAPと診断されると大腸以外の臓器にも腫瘍発生の危険があるとされています。
 ②リンチ症候群は、遺伝的に大腸癌が多い家系で、遺伝子検査を行いMLH1,MSH2、MSH6,PMS2などの遺伝子がみつかると診断されます。簡便なスクリーニング検査としてマイクロサテライト不安定性(MSI)検査があります。臨床的な特徴は全くないため、家族歴の聴取から疑う疾患です。
 今回のコラムは、みなさまの不安をあおるために掲載しているのではありません。遺伝性乳癌の際にも書きましたが、家系にそれら癌患者が多い場合みなさんがどのように考えたらよいかを伝えたいがためです。その相談をしたいという方は、ぜひ全国遺伝子医療部門連絡会議のホームページ(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)を開いて欲しいと思います。もちろん、医学界でもそのような患者さんたちの不安を取り除く画期的な治療を現在探っている事実もあわせてお伝えしておきましょう。
(文責 院長・若杉 直俊)

アメリカの減塩政策

 EU離脱に舵を切った英国ですが、その英国では数年前からすでに保健省が国を挙げてナトリウム摂取を減らすべく、強力な権限をもって食品メーカーが作る加工食品の塩分量を規制しました。その結果英国民の1日塩分摂取量が30%以上低下したことが知られています。
 これを踏襲したわけでもないのでしょうが、アメリカ食品薬品局(FDA)も食品業界に対して、2016年6月1日 自主的に塩分含有量を減らすガイドラインを示しました。アメリカ人が摂取する塩分の7割は、加工食品や飲食店で提供される食事由来だそうです。そこで草案ではパンやスープ、チーズ、ソース、菓子など150の食品カテゴリーごとに2年後および10年後までに達成を目指すナトリウム含有量の削減目標値が示されました。
 現在アメリカ人が摂取しているナトリウム量は1日あたり平均3,400mg(食塩約8,6gに相当する)で、現在FDAが推奨する2,300g(食塩約5,8g)を50%も超えています。FDAの試算では、今後米国民の塩分摂取量を40%減らせば50万人の死亡を減らせ、1000億ドルの医療費削減につながるとしています。同じく米国心臓協会もこの決定を歓迎し、塩分制限によって、高血圧患者が150万人減少する試算をだしています。
 ひるがえって、現行の日本では平均塩分摂取量が食塩換算で約9g、厚労省が目指す6g/日以下をおおいに上回っています。1g/日の減塩が 血圧2mmHg下げるとも言われています。くれぐれも塩分の摂り過ぎには注意しましょう。(文責 院長・若杉 直俊)

くまもと禁煙推進フォーラム

 喫煙は脳卒中や認知症の危険因子で有り、禁煙を推進することは重要です。昨年までは長期に喫煙を続ける方のみ(ブリンクマン指数600以上)が、健康保険で禁煙プログラムを受けることが出来るようになったのですが、今年からまだ喫煙歴が浅い方でも保険で禁煙プログラムを受けることが出来るようになりました。
 しかし、喫煙習慣のある方の禁煙はなかなか難しいのが現状です。そこで、子どもの頃からの禁煙運動が重要になります。熊本市民病院の橋本洋一郎先生は、2009年にくまもと禁煙推進フォーラムを立ち上げました。はじめに行ったのは、学校こそはまず禁煙プロジェクトです。そして医療機関も禁煙を、さらに市民啓発のためにスモークフリーウォ-クを計画し、2012年には禁煙戦隊ソツエンジャーのキャラクターを生み出しています。
 実は熊本県はタバコ農家が多く、先生の運動には県民はやや冷ややかでした。しかし、先生の地道な活動によって徐々に賛同者が増加し、現在でも多くの成果を上げているようです。学校の禁煙など当たり前と思われるかもしれませんが、運動の初期に調査したところ、中高生の喫煙のはじめは小学1、2年生の頃からというこどもが一番多いというのです。先生の経験では、長期喫煙者が普通に医療機関を受診した際、医者がやめませんかとアドバイスするだけで2%の方が禁煙するそうです。したがって、熊本の医療機関では喫煙者に常に禁煙がすすめられ、禁煙外来の受診をすすめられるようです。
 もし、遊びでタバコを口にしている小学生の方が周囲にいたならば、ぜひ参考にしてみてください。(文責 院長・若杉 直俊)

経鼻式インフルエンザワクチン

 毎冬季流行するのがインフルエンザで、2015/2016の流行も4月下旬をもって終息しました。当クリニックのホームページ1面でも書いているように、手洗いうがいと適度な休息そしてワクチンが予防に重要だとしています。
 そのワクチンですが、13歳未満に2回、13歳以上には1回注射します。特に乳幼児は痛がってかわいそうと思われますが、ワクチン未接種で罹患すればもっと大変なのはご存知のとおりです。そこで注射ではない鼻からのスプレー式で接種できるか検討されていますが、まだ日本では認可されていません。海外ではすでに使用されていますが、予防効果が確実でなければ無駄なワクチンとなります。
 実は日本でもこのスプレー式ワクチンが可能です。ただしそれは、ネットなどで広告をだしている一部の実施医療機関が海外から輸入して、そこでのみ出来るのです。当院ではどうか。実施していません。その理由は。
それは2013/2014のAソ連(H1N1)流行時スプレー式であまり効果がでなかったことから、2014/2015のA香港(H3N2)流行での効果をアメリカ疾病予防センター(CDC)が不活化ワクチン(注射ワクチン)と比較しました。その結果予防効果がスプレー29%に対し注射60%と明らかにスプレーの効果が低いことが報告されているからです。
実施医療機関を誹謗中傷するつもりはありません。保護者がその薬効を理解した上で接種することを妨げるものでもありません。むしろ改良が加えられればおおいに検討したいと考えています。ただし新しい医療行為はよく理解した上で実施することが重要であることを広くお知らせするためにこの記事を載せました。(文責 院長・若杉 直俊)

温風暖房機

 初夏に入り30℃を超える日もくるようですが、今更温風暖房機などの話題とはいかがかと思いでしょう。この話題をとりあげたのは、日本の小児科医の集まりである小児科学会の学術誌では、毎回子どもの生活環境改善委員会が危険な電化製品やおもちゃなどを会員に速報し、小児科医がこどもの事故を速やかに治療する体制をしいていることをお知らせするためです。
 2016年5月の学術誌では、人形の止め金具で窒息した例と人感センサー付きセラミックヒーターで乳児がやけどをした例が報告されていました。今回は後者を取り上げます。
センサー付きの暖房機では一見機械が停止しているようで、機会を完全にオフにするかコンセントを抜かない限り、ヒドが近づくと温風が出ます。報告例では,4ヶ月の乳児が母親の目をはなれた際その温風を受け、頭皮にやけどを受けたというのです。国民生活センターの検査では、同機種は吹き出し口50cmで40-73℃ 1mで31-54℃あり、十分やけどをおこしうるというのです。
こどものまわりには危険がいっぱいです。事故をうけたお母さんもこの温風機の説明書をあまり読んでいなかったそうです。こどもの事故を防ぐ努力は大人に課せられた大事な使命です。温風機以外にも危険物はたくさんあります。小児科学会誌を読むのは医者ですが、事故情報を得てこどもの治療に備えるとともに、親御さんともども事故をおこさないような指導もあわせて行っていくつもりです。(文責 院長・若杉 直俊)