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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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AADC欠損症

 当院では1年前から、障がい児を日中お預かりしています。まだ10名弱ですが、肢体不自由があり食事もできないお子さんもいます。多くの場合、新生児仮死(出産が重い場合など)やてんかんなどの基礎疾患を持つのですが、遺伝子レベルの異常がある方もいます。遺伝子異常のあるお子さんは、どんなに産科医ががんばっても障がい児として産まれてきます。ところが医学の進歩により生まれつき欠損した遺伝子を体内に送り込むことにより、正常化する治療が可能になってきました。日本で実際に行われた第1号の遺伝子治療がAADC欠損症治療です。
 AADC欠損症とはどんな病気でしょうか。AAは芳香族アミノ酸を意味します。このAAからドパミンやカテコラミン、セロトニンなどの神経伝達物質を作る際働く酵素がAADCで、これが先天的に欠損すると手足の筋肉の動きが悪くなり、脳性麻痺の状態になります。日本では現在5家系6人の患児がいます。全世界でも100例未満です。症状は生後1ヶ月以内に発症し、目を上転させる発作が特徴的でほかにもジストニア(不随意運動の一種)もめだちます。
 治療は、2015年6月にはじめて山形の症例に実施されました。幸い順調な経過をたどっています。このご家族の姿をテレビ朝日では何回か放映しています。臓器移植と同じように、21世紀の夢の治療が遺伝子治療です。理論的には理解できても、実際どのように行うか膨大な基礎実験が必要な領域です。ほかにも遺伝子が関わる病気はたくさんあります。それらにこの治療が適応し治癒の見込みできるとしたら、それこそ多くの方々の福音となるでしょう。
(文責 院長・若杉 直俊)