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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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HeLa細胞

 第2次世界大戦が終わり医学の知見が飛躍的に拡がった1950年代、多くの医学者の努力により現代医学の基礎となる様々な発見がなされました。最近NHKの番組でも取り上げられたのですが、HeLa細胞が発見されたのもこの時代です。HeLa細胞とはなんでしょうか。
 ヒトの細胞を試験管のなかで長時間培養することが出来れば、薬の副作用や病気のメカニズムの解明に大いに役立ちます。ところが20世紀なかばまで、多くの医学者が試みても出来なかったのがヒトの体細胞の培養でした。ところが、ジョンホプキンス大学のジョージ=ガイ博士が1953年に、黒人女性ヘンリエッタ・ラックスさんの子宮癌細胞を採取してこの技術を確立しました。その細胞を彼女の名前を略してHeLa細胞と命名しましたが、このHeLa細胞がその後の医学の発展に大いに貢献したのです。たとえばポリオのワクチンもこの細胞なくしては開発できなかったでしょう。抗がん剤の開発も、HeLa細胞あってはじめて成功しました。筆者は研究生時代細胞培養はしませんでしたが、隣接する研究室ではこの細胞を用いて病気の診断やさまざまな実験が行われていたのを記憶しています。
 ところで、ヘンリエッタさんは子宮癌手術から7ヶ月で亡くなりましたが遺族の方は現存しています。今から50年以上前には、アメリカでも患者の権利は顧みられていませんでした。彼女の細胞は本人やご家族の意向なしに、その後50年以上医学の研究に供されたのです。そこで4年前から、ご遺族とアメリカ医学界は対話を重ね遺族の意向を研究に反映することを約束したそうです。新しい話題ではありませんが、これからの医学を考える上で、示唆に富む話題であると思います。(文責 院長・若杉 直俊)