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解離性同一性障害

 2018年年4月 東京高等裁判所で30歳代の女性の刑事裁判が行われました。窃盗罪で起訴された被告は、犯行時責任能力なしとして本来の罪に問われませんでした。その理由が表記の解離性同一性障害(DID)だったのです。
 「ジキル博士とハイド氏」(スティーブンソン著)をごぞんじでしょうか。一人の人間のなかに二人の人格があり、全く別の行動をおこす人物を描いた小説です。今回の裁判では、被告が本来の人格と異なる状態で30万円以上の品物の窃盗を働いたと勘案されて、求刑どおりに量刑されなかったようです。もちろん二審の結果ですから、検察が控訴して逆転する可能性もあります。
 DIDの話をきくことはあっても、実際に遭遇することはまれかもしれません。しかし、精神科医にきくと今回のようなケースは別として、そこそこみかけるようです。家庭内や友人間の問題で疎外されて、非現実的な夢の世界にとびこみ安住を求める例など、みなさんもかつて経験しなかったでしょうか。
 精神科医は、もし患者さんをDIDと診断した場合「ワークスルー」という手法で治療します。それは、抑圧された葛藤に対して解釈を行い、洞察を深め現実から逃避する人格を打ち消していく方法です。その治療の間には逃避といって治療者の解釈を否定し自らを守ろうとする防御反応も激しく出現します。
 おそらくこの被告も、精神科医療をうけながら再犯を防ぐことになるでしょう。しかし司法の場でDIDが量刑に考慮されることは画期的とされています。
(文責 院長 若杉直俊)