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遺伝子治療(2)

 AADC欠損症の治療に続き、実現しそうな遺伝子治療の対象が筋ジストロフィーです。そのなかでも日本人に多くみられる福山型筋ジストロフィー(FCMD)がそのターゲットです。FCMDは日本人に多く現在患者数は1000-2000人います。昨年なくなった東京女子医大名誉教授福山幸夫先生が発見し、その名を冠した疾患です。
 FCMD遺伝子に異常が起きると、その生成タンパクであるフクチンに異常が発生し、症状としては歩行をはじめとする運動能力の低下がみられ、最終的にはねたきりになります。高度な知能・言語発達遅滞もみられます。平均寿命は17歳前後です。
 この治療に対して、神戸大学のグループはエクソントラップ阻害療法という遺伝子治療を試みました。これは、異常な遺伝子を読み込ませない薬(アンチセンスオリゴヌクレオチド)を投与して、細胞内で異常な遺伝子の働きを阻止し、正常に働くフクチンを作り出す治療です。試験管内の実験では成功しています。この方法は世界的にも患者の多いデュシャンヌ型筋ジストロフィーでも試みられている治療です(残念ながらまだ実用化されてはいません)。
 日本人が発見した病気を、日本人のグループが画期的な薬で治療する、われわれ医学に携わる人間にはワクワクするようなお話ですし、患者さんにも光明になるでしょう。(文責 院長・若杉 直俊)