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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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放線菌のはなし

 2015年のCDCの目標に、抗生物質の耐性化の項目があることを記しました。抗生物質とはどんなものでしょうか。
1943年イギリスのワックスマンは、細菌学研究のなかで ある菌を培養中一部に菌が死滅している部分があることを発見し、その原因が放線菌の混入によるもので、さらには放線菌が分泌する物質によることを見いだし、この物質をストレプトマイシンと名付けました。この発見で人類が悩まされてきた感染症、そのなかでも最大の壁である結核の治療がはじまったのです。彼のこの功績に対し、1952年にノーベル賞が授与されています。
放線菌は、土中にたくさんの種類が存在します。そして その後、放線菌からエリスロマイシンやネオマイシンなどの抗生物質、さらにはダウノルビシンなどの抗がん剤も発見されました。放線菌は原核生物つまり、遺伝情報DNAを核としてもたず 細胞内に溶け込んでもつ原始的な生物のなかでも、最も進化した形態をもっています。乾燥や熱に対しては胞子として子孫を残します。胞子は空気中にただよいます。だから食パンやもちに胞子がついて、俗に言う青かびや赤カビがつくのです。放線菌が産生する抗生物質は、他の細菌と競争して環境中の栄養成分の取り合いに放線菌自身がうち勝つために分泌されますが、細胞を殺すほどですから 抗がん剤がこのなかから発見されたのもうなずけます。
その抗生剤に反応しない細菌が増えています。耐性菌です。現在まで抗生物質候補は、あまた放線菌から発見されているのですが、ヒトの細胞にも影響する諸刃の剣のような物質も見いだされ、実用に供されない物質の方がはるかに多かったのです。最近それらの物資のヒトへの影響を抑制して、抗生剤として活用する研究も行われています。感染症に勝利した20世紀の医学の継続で、21世紀のさらなる飛躍が望まれます。(文責 院長・若杉 直俊)