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大震災と心臓発作

 東北大震災からはや5年、復興の道いまだしの状況です。今年の日本循環器学会は、その東北の地 仙台で開催されました。その演題の中で、岩手医大中村元教授のグループが、この4年間うっ血性心不全および突然死の発症が、震災前に比べ高い水準を示していることを発表しました。(日本循環期学会 2016.3.18-20)
 中村教授のグループは、東北各地の特に津波被害のおおきかった地域において、震災直後急性非代償性心不全がそれ以前に比べ2倍発生したことをかつて報告しています(Am J Cardiol 2012;110:1856-1860)。さらに続けてこの5年間の調査では、津波小被害地では震災前と比べ変わらぬ発症率が、大被害地では1.5倍に増加していることが判明したというのです。その背景には、津波被害による長期的なストレスや環境の変化が生活習慣の悪化をもたらし、この結果となったと推計しています。
 阪神淡路大震災でも同様に、仮設住宅や復興住宅での孤独死増加の問題が指摘されました。循環器学の分野では、ストレスホルモンであるアドレナリンなどの交感神経刺激物質が心筋にダメージを与えることは知られていました。それが、今回のようにはっきりと疫学的な数字で示せたことは、地震大国日本では重要な意味を持ちます。今後起きうる首都直下型地震や、東海・東南海地震でも同様なことが起きうるでしょう。今後の対策に今回の発表が活用されることを期待します。(文責 院長・若杉 直俊)