医学の話題医学の話題

若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

リンチ症候群

 110回目のコラムの主に遺伝子が関与するガンでとりあげた疾患です。第14回日本臨床腫瘍学会(2016/7/28-30 神戸)で、国立がんセンター中央病院の中島健博士はいかにリンチ症候群を大腸癌患者の中から拾い上げるか に関する報告をしました。
 内視鏡でたくさんポリープがあるFAP(家族性ポリポージス)はすぐ診断できます。しかしポリープがないかあっても少ないこの疾患では、①家族歴や発症年齢 ②臨床徴候がベセスダ基準に該当するか ③MSI検査の陽性 ④MSI陽性者のMMR検査陰性の確認 が診断の決め手になります。しかもMSI検査陽性者には、あのオプジーボが抗がん剤として効果があることがわかってきました。
 博士は、2013-2015年に国立がんセンターを受診した70歳以上でベセスダ基準にあてはまる300例の大腸癌患者に免疫組織染色検査を行い、遺伝子異常が疑われる症例が約7%見つかったと発表しています。さらに日本では、あまり大腸癌患者にMSI検査が行われていない実態も報告しています。欧米では70歳以上の大腸癌患者には、博士が行ったような検査を実施して、陽性者の家族には積極的な大腸癌をふくめた予防検診が必要と認識されています。
 遺伝性大腸癌では、アンジェリーナ・ジョリーが行ったような予防的器官切除はできません。しかし遺伝的にその素因がある方は、大腸以外の臓器の発癌も報告され、癌検診が大いに重要な意味を占めるという博士の主張が、これからは主流になってくるはずです。
(文責 院長・若杉 直俊)