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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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肺炎の予防

【肺炎の予防】

 肺炎は抗生物質のなかった20世紀前半までは 大変恐ろしい病気でした。肺炎の病原菌のうち結核菌によるものが肺結核であり、かつては死病とおそれられ多くの人々の命が失われました。しかし フレミングによるペニシリンの発見以来 結核も克服できる病気になってきました。もちろん まだまだ結核もあなどれない病気ですが、現在恐れられている肺炎は、高齢者 特にねたきりの方に多い誤嚥性肺炎です。高齢者の死亡原因で肺炎が第3位をしめています。
 その予防は、誤嚥を防ぐこと、口腔内の清潔をはかること、万一肺に菌が侵入しても感染に耐えうるよう免疫を高めること つまり日頃の栄養管理も大事です。免疫といえば、高齢者の肺炎の原因菌の20%をしめる 肺炎球菌に対する予防接種も効果があります。俳優の中尾彬が出演していたコマーシャルを覚えている方もいるでしょう。そこで紹介されていた肺炎球菌ワクチンがこの秋から、一部公費負担でうけられるようになりました。
 厚労省は 秋からのワクチン接種が、対象者すべてを短期間で完了するにはやや無理があると判断しました。そこで 65歳から 5歳きざみでむこう5年間かけて、65歳以上のすべての希望者に肺炎球菌ワクチン接種をする計画をたてています。詳しくは、この事業が実施される直前に さいたま市民への説明がなされると思います。市の広報などに注意をはらってください。誤嚥性肺炎をふせぐためにもぜひこのワクチン接種をおすすめします。
(文責 院長・若杉 直俊)

新しい糖尿病薬

【新しい糖尿病薬】

 生活習慣病のうち、日本人の2050万人が罹患している病気が糖尿病です。すべてが厳格な管理の下治療が必要なわけではありませんが、実際このうち医療機関で治療や指導を受けている方が全体の約3分の1といわれています。
 糖尿病のうち、膵臓から分泌されるインスリンが突然分泌されなくなるのがタイプ1型糖尿病で、運動不足や肥満でインスリンが分泌されているのに血糖が高いのがタイプ2型糖尿病です。糖尿病患者のほとんどがタイプ2型糖尿病ですが、その治療は まず運動・食事療法です。過剰なカロリーの摂取をひかえ 適度な運動で血糖をコントロールする治療が必要です。その際に治療の目標となるのが HbA1cと食後血糖値です。それぞれ HbA1cで6.5%未満 食後血糖で180以下であれば 投薬はいりません。しかし 運動・食事療法実施でも HbA1c 6.5%以上 食後血糖180以上のコントロール不良群が、薬物療法の対象になります。
 糖尿病の薬には、①インスリンの分泌を増やすもの ②インスリンの効果を高めるもの③食事のうち炭水化物の吸収をおくらせるもの ④血糖を上昇させるホルモン=グルカゴンの働きをおさえるもの などがあり、これらは経口薬ですが、経口薬で効果が不十分なときにはインスリンの注射がもちいられます。なお タイプ1型の糖尿病は、はじめからインスリン注射が基本です。ところが 今年の春から 新しい薬が使われるようになりました。それはリンゴの皮から抽出された物質で 尿から多量に糖分を排泄させる作用を持っています。
 本来 糖尿病が悪化すると、多量の糖分が尿から出ていました。これは 腎臓は本来人体に必要な糖分を保持して、飢餓状態から体を守る働きがあるのですが、血糖が必要以上に高くなるとオーバーフローでたとえ必要な糖分でも 尿から過剰な分が流れでていくのです。血糖が 180以下なら普通 糖は尿に出て行きません。ところがその働きをおさえ 正常な血糖でも尿から糖分を排泄させるのが新薬で、この働きにより最高400Cal近くの糖分を体外にだす、つまり食事で400Calちかくダイエットするのと同じ効果が出るのです。このことが話題先行して、この薬を糖尿病ではない方がダイエットに使用できないかということがネットで噂になっています。もちろんそれはいけません。さらに この新薬には、投与中気をつけなければならないことが多くあります。たとえば 脱水に注意すること、尿路感染に注意すること、筋肉量の減少に注意することなどです。ほかにも新薬の思わぬ副作用が出ないとも限りません。現在では 医療機関で2週間を限度に処方して、それらの有害事象がないかを慎重に見極めています。糖尿病は まずは食事・運動療法が基本です。それでも血糖が高い方は、ぜひ医師に相談してください。
(文責 院長・若杉 直俊)