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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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出生前診断

【出生前診断】

 2012年夏 新聞で初めて報道されて以来議論され続けているのが、出生前遺伝学的検査です。これは、まだ胎児の段階で 生まれてくる子供に遺伝的な異常がないか調べる検査です。胎児の異常を調べる方法としては、以前から超音波やMRIなどで胎児の形態を調べる方法、羊水や絨毛(胎盤の一部)を採取して調べる方法、母親の血液から異常マーカーを調べる方法などがありましたが、母体に負担を与えたり確実性が乏しかったり 一長一短でした。そこで近年開発されたのが、母体の血液中にある胎児由来の遺伝子の切れ端を調べる検査であり、すでに実用化されています。
 妊婦さんの血液には、自身のものと同時に胎児由来の遺伝子の切れ端があることが知られています。胎児が21-トリソミー(ダウン症候群)の場合、通常の胎児にくらべ、21番目の遺伝子由来の切れ端の比率が増加して、このことより胎児に遺伝子異常があることが推察され、異常と診断されるのです。検査の感度(異常を見つける割合)特異度(正常を異常と誤らない割合)ともに99%とされています。トリソミーは他にも18- 13-とあり、これらの診断に貢献しています。ただし、診断がついた場合の妊婦さんならびに家族への対応には、細心の注意が必要です。十分にカウンセリングを行い、出産の決定権はあくまで親にあること、そしてその負担感を少しでも軽減する必要があります。さらに21-トリソミーなどをもつお子さんに対する社会の偏見を解き、それらのお子さんを暖かく社会全体でささえる環境を作らねばなりません。先進国フランスの2009年のテータでは、トリソミー陽性の96%が妊娠中断を選択し、このことを軽々には評価出来ませんが 一部の人たちの憂慮の種となっていると聞いています。
 医学の進歩に人間の倫理観が追いつけない一例とでもいえるのでしょうか。我々も当事者になったつもりでこの問題を考えていきたいと思います。
(文責 院長・若杉 直俊)

AED

【AED】
 BLS(basic life support)という概念があります。これは、突然意識を失った方に遭遇したとき、一般の人々がとるべき行動をさして表現するものです。またこの講習会もあります。では なぜBLSなのか。
 2011年9月30日さいたま市内の小学生が課外授業中突然倒れ、短い命を終えました(aed-project.jp)。桐田明日香さんという女児です。突然 致死的不整脈が発生し、引率の教師も動転し救急車をよびましたが不幸な結末にいたりました。もし、転倒直後に応急処置がなされ、AED(自動電気心臓除細動機の略)が効果的に使用されていたら、別の結果に至った可能性もあります。明日香さんのケースでは残念ながらAEDはまわりにあったのに使用されませんでした。このことを契機に、さいたま市では故明日香さんの名前を冠したアスカプロジェクトが展開されています。つまり、大人もこどももBLSを身につけようという運動です。BLSの要点は、心臓マッサージと人工呼吸 そしてAEDの使用です。
 AEDは最近ではほとんどの公共の場で、目につくところに設置されています。AEDを使用したことのある方はほとんどいないでしょう。もちろんAEDが活躍する場がゼロであることが望ましいのです。しかし、突然の不整脈による失神は現実に起こりうるのです。BLSの実際はここでは述べません。中学校などでは、授業の一環でBLSを学び、興味ある大人の方は市の広報等で講習会場を知ることも出来ますし、まとまった数の受講希望者がいる場合は消防署に御願いすると 出張講義を受けることも出来ます。
我々さいたま市民にBLSプロジェクトを残してくれた 明日香さんの尊い死からもうすぐ3年がたちます。万が一突然の事態に直面したとき 市民が適切に救急処置を施すことが出来る、そんな安全な社会にしたいですね。

(文責 院長・若杉 直俊)

難病法

【難病法】

 難病とは、明確な治療法がなく症状を寛和しながら長く治療するものです。世界に数例しか報告されていないものから、日本でも数百例診断されているものまで各種ありますが、現在まで国は67疾患の難病を指定して 医療費を補助してきました。ところが2014年5月に難病法を改正して 新たな難病を指定して110疾患を医療費助成の対象としました。これにより従来78万人から120万人へと医療費助成が拡大されました。
 しかし、現在までの指定難病では医療費全額免除でしたが、新たな法律では自己負担が一定割合課せられ 診断基準の上で軽症とされたものは、補助の対象外とされました。そのため一部の患者さんから不満の声もでています。完治の希望もなく長期の療養をせまられる難病患者さんには、せめて医療費ぐらいゼロにと思いますが、それもかなわなくなりました。
 難病を含めて心身に障がいを持つ方が、福祉制度を受ける権利は憲法で保証されています。今まで述べた難病医療補助 障がい者支援法で規定されたサービス 高齢者には介護保険サービス 収入のない方へは生活保護 税制上では障がい者への税制優遇などです。しかしこれらは申請をしてはじめてサービス受給が可能となります。しかし、役所に行っても窓口が多岐にわたり 本来受給権利をもちながら申請していない方も多いと聞いています。各自治体には障がい者支援センターが設けられ、岩槻区でも仲町2-5-3 電話793-4701 に岩槻区障がい者生活支援センター「ささぼし」という施設があります。お困りの方は相談に行かれるとよいでしょう。さらに、埼玉県全体の難病相談・支援センターもあります。国立病院機構 東埼玉病院内にあり、電話は048-768-1161です。
 ご自身がかかっている病気に、国の助成があるかなきかはぜひ主治医に相談してください。
(文責 院長・若杉 直俊)

エボラ出血熱

【エボラ出血熱】

 エボラ出血熱も話題の感染症です。ただし 日本国内で広がる可能性は限りなくゼロなので、安心してください。エボラ出血熱は、1970年代 中央アフリカ諸国(コンゴ スーダン ウガンダ ガボンなど)でしばしば流行がみられていましたが、今回は西アフリカのギニア、シエラレオネ、リベリアなどの国で患者報告があり、この地域での流行ははじめてです。現在2000人以上の死者が報告されています。
 エボラ出血熱は、エボラウィルスによる感染症です。ウィルスに感染すると2-21日(通常7-10日)の潜伏期間の後、突然の発熱 頭痛 倦怠感 筋肉痛 咽頭痛などの症状を呈します。その後、嘔吐 下痢 出血(吐血・下血)などをおこします。感染すると致死率は高く、現在70%以上とされています。
 エボラ出血熱の感染経路は症状の出ている患者の体液(血液 分泌物 吐瀉物 便)や、体液に汚染されたガーゼや注射針を十分な防護なしで触った際に、傷口から感染して発症します。空気感染はしません。また流行地では、オオコオモリ サル アンテロープの死肉に触れた人にも感染が見られており、そもそもそれら動物の感染症がヒトに広がったと考えられています。
 アメリカの医療従事者が感染して本国に移送され、未承認の抗ウィスル薬を使用して回復したことが報道されました。はやくアフリカの医療現場で使用できないかとヤキモキしますが、この薬が数千人規模で使用できるためには、もう少し製造に時間がかかるということでした。感染症の性質上日本での流行は考えられませんが、特効薬の開発を含め日本で支援できることはできるだけのことをして差し上げたいものですね。
(文責 院長・若杉 直俊)

デング熱

【デング熱】
 デング熱が話題になっています。海外渡航の経験のない方の中に感染者がでたことがマスコミで報道されました。デング熱とはどんな病気でしょう。
 デング熱はネッタイシマカが媒介するウィルス感染症です。日本にはネッタイシマカはいませんが、日本にいるヒトスジシマカも媒介します。病原菌を媒介する生物をベクターと呼びますが、ウィルス陽性のベクターにより吸血時感染すると3-7日の潜伏期間の後に発熱、発疹、頭痛、関節痛、嘔気などが全例にみられます。発疹の形状は、麻疹様紅班 点状出血 紅色丘疹などです。そのなかで、重症化する割合が1-5%、その際の致死率は10-20%です。重症例では、鼻出血や消化管出血がみられ、精神状態では不穏がみられます。
 検査は血液からのウィスル分離 PCRによるウィルス遺伝子の検出で行います。治療は、対症療法です。重症例でも適切な治療が行われた場合は、致死率1%未満です。重症化する要因として、異なる型のウィルスの再感染による場合が推測され、今回の騒動では重症化する可能性は低いと思われますが、東南アジアなどを旅行中感染し治癒した経験のある方は注意が必要です。残念ながらこの病気を予防するワクチンはありません。
 日本脳炎の項でも解説しましたが、地球温暖化がすすむなか 日本でもこの病気が常態化することが予測されます。日本の空港では、厚労省の検疫官が飛行機内および空港周辺で虫網を使って蚊などを補足し、デング熱をはじめさまざまな病気を媒介するベクターを調べています。みなさんもぜひ気をつけてください。
(文責 院長・若杉 直俊)