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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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RSウィルスの話

 昨年夏頃からRSウィルス感染者の報告が増加して、ニュースなどでも注意が喚起されていました。RSウィルスは通常 冬期に感染が広がります。RSウィルス感染症とはどんなものでしょうか。
 RSウィルスはrespiratory syncytial virusの略語です。RSウィルスに感染すると、4-6日の潜伏期間ののち、咳 鼻汁 発熱がみられます。数日で軽快しますが、場合によっては細気管支炎や肺炎へとすすみます。通常2歳までにほとんどのこどもは感染しますが、それ以下のこどもで初感染を起こした際に、肺炎等を併発します。重症化しなくても、ケンケンといった苦しそうな咳が通常のかぜよりも目立ちます。感染経路は、咳による飛沫感染と、たんや唾液が物に付着してそれを触って感染する接触感染です。
 治療は対症療法のみです。パリビズマブというモノクローナル抗体があり、早産児や心疾患児 免疫異常をもつ児などに予防的に投与する薬はありますが、治療薬ではありません。検査は鼻汁などを採取してウィルスを確認しますが、疾患の性質上2歳以上の児は必要性がとぼしく、保険では1歳未満の児のみが対象で1歳以上の児は原則自己負担の検査となります。
 0歳児で、しつこい咳が続く場合はこの疾患をうたがい 早めの医療機関受診をおすすめします。(文責 院長・若杉 直俊)

小児慢性疾患のフォローアップ

 2015年1月の日本医師会雑誌の特集は、慢性疾患をもつ子どもの成人への移行問題があげられています。医療の進歩で、先天性心疾患 小児癌 神経疾患等の生命予後がよくなり、高校生以上の方々がいつまでも病院・診療所の小児科外来に通院することが困難な状況になっています。しかし、医療側の小児科・内科間の意思伝達の齟齬 患者本人および家族が主治医の交替を嫌うこと そもそも稀少な疾患の場合に内科に専門科がいない などの場合、15歳以上の方が乳幼児に混じって診療を受ける事態になります。
 小児期に担当した主治医が積極的に患者さんの一生を治療する意思があり、患者さんもそれを受け入れる場合はさほど問題はありませんが、心臓病などは頻度的には出生児の0.5%に異常が見られるためその患者数も多く、最近では医療側も成人先天性心疾患学会などが組織されそこに属する医師は、積極的に小児科から移行した成人患者をうけいれているようです。しかし、すべての内科循環器医がその対応をするわけではありません。疾患によっては、病院などにある医療相談室へ事前に問い合わせるなどの手続きが必要になります。また以前に栄養の項目で紹介したアミノ酸代謝異常症などは、稀少疾患であるため はじめに診断した小児科医が、おおむね成人以降も治療している例が多いようです。
 さらに成人以降で問題になるのは、患者本人の意識です。ただでさえ親に反抗する年代の思春期のこどもが、自覚的に自分の病気とむきあい 諸事情で変更された新しい内科診療医とその後の治療方針を話し合うのは、いささかハードルが高いのかもしれません。保護者をはじめ、こどもをとりまく友人・知人が励ましてはじめて移行が可能になるのではないでしょうか。診療中断でせっかく克服してきた疾患が悪化することがないように、われわれ大人が小児慢性疾患のこどもたちを暖かく見守りたいものです。
(文責 院長・若杉 直俊)

世界の平均寿命

 日本の平均寿命が世界でもトップクラスであることは衆知の事実です。2014年の数字では 女性86.1歳で世界1位 男性80.21歳で①香港②アイスランド③スイスに次いで第4位です。それでは世界の寿命はどうでしょう。
 世界の194の国と地域の統計では2013年現在、平均値で男性68歳 女性73歳と報告されています。1990年からの23年間に男性で5.8年 女性で6.6年延長していることも確かめられました。この調子で伸びていくとどうなるか。米ワシントン大学のMurray博士によると、2030年には男性で78.1歳 女性で85.3歳と2014年現在の日本の記録と変わらない数字が予測されています。(Lancet2014.12.18)その死因も上位3つをみると、1990年は①肺炎②下痢性疾患③早産から2013年は①虚血性心疾患②肺炎③脳血管疾患と現在の日本の統計に近づきつつあります。世界の人口は現在約70億と推計されていますが、2030年には100億近くになるとされています。
 これは、ひとえにWHOをはじめ世界各国が人類の病気に前向きに対処してきた、そしてその姿勢を継続する英知の勝利です。しかしこの数字は必ずしもバラ色の未来を予測しているかといえば、疑問符がつきます。食糧問題・地球温暖化をはじめとする環境問題・資源の奪い合い・高齢化社会などの問題が今以上にあからさまになるでしょう。その時こそ、人類の真の英知が試されるときです。博士もこの数字が国連のミレニアム開発目標(MDGs)の次の世代につきつけられるであろうと予測しています。
(文責 院長・若杉 直俊)

放線菌のはなし

 2015年のCDCの目標に、抗生物質の耐性化の項目があることを記しました。抗生物質とはどんなものでしょうか。
1943年イギリスのワックスマンは、細菌学研究のなかで ある菌を培養中一部に菌が死滅している部分があることを発見し、その原因が放線菌の混入によるもので、さらには放線菌が分泌する物質によることを見いだし、この物質をストレプトマイシンと名付けました。この発見で人類が悩まされてきた感染症、そのなかでも最大の壁である結核の治療がはじまったのです。彼のこの功績に対し、1952年にノーベル賞が授与されています。
放線菌は、土中にたくさんの種類が存在します。そして その後、放線菌からエリスロマイシンやネオマイシンなどの抗生物質、さらにはダウノルビシンなどの抗がん剤も発見されました。放線菌は原核生物つまり、遺伝情報DNAを核としてもたず 細胞内に溶け込んでもつ原始的な生物のなかでも、最も進化した形態をもっています。乾燥や熱に対しては胞子として子孫を残します。胞子は空気中にただよいます。だから食パンやもちに胞子がついて、俗に言う青かびや赤カビがつくのです。放線菌が産生する抗生物質は、他の細菌と競争して環境中の栄養成分の取り合いに放線菌自身がうち勝つために分泌されますが、細胞を殺すほどですから 抗がん剤がこのなかから発見されたのもうなずけます。
その抗生剤に反応しない細菌が増えています。耐性菌です。現在まで抗生物質候補は、あまた放線菌から発見されているのですが、ヒトの細胞にも影響する諸刃の剣のような物質も見いだされ、実用に供されない物質の方がはるかに多かったのです。最近それらの物資のヒトへの影響を抑制して、抗生剤として活用する研究も行われています。感染症に勝利した20世紀の医学の継続で、21世紀のさらなる飛躍が望まれます。(文責 院長・若杉 直俊)

タバコと健康

 喫煙が健康によくないことは広く知られていますが、2012年放射線影響研究所 坂田博士による約7万人の報告では、20歳までに喫煙開始した人(1925-1945年生まれ)では、非喫煙者と比べ男性で8年 女性で10年の余命の短縮 つまり早死にすることがわかりました。さらに生まれた時期と1日喫煙本数 喫煙開始年齢を調べたところ、1890年以前に生まれた方は 男性で平均13本/日 女性で7本/日 喫煙開始も 男性で23歳 女性で36歳であった、ところが1930-45年生まれでは男性で24本/日 女性で13本/日 喫煙開始も 男性20歳 女性24歳と喫煙量も増え 開始年齢も低下しています。
 さらに禁煙の効果もみたところ、禁煙年齢が若いほど総死亡のリスクがへっていることも確認されました。(Sakata R et al:BMJ 2012;345)つまり 1920年以後に生まれた方で成人早期にタバコをはじめ いまだに喫煙している人は、非喫煙者と比べて平均して10年早く亡くなるというのです。さらに、禁煙はどの年代ではじめて死亡率低下の効果があることも判明しました。
 喫煙の弊害は、肺癌であり 慢性閉塞性呼吸器疾患であり 心筋梗塞をはじめ循環器疾患にも影響します。現在タバコを吸っている方々は、ぜひこの機会に禁煙をこころみることをすすめます。  (文責 院長・若杉 直俊)