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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

メラノーマ治療の進歩

60回目のコラムで、免疫チェックポイント治療のお話をしました。メラノーマ(悪性黒色腫)治療に用いられ、従来は治療成績の悪いこの皮膚癌の予後をみごとに改善した報告をしました。
 その際紹介したのはニボルマブ(商品名オプジーボ)ですが、いずれ日本でも別の同様薬イピリムマブも使用できそうです。両者を併用してよりよい効果が出ることが期待されています。その機序は、癌細胞を攻撃する免疫細胞のパワーを持続させるのですが、さらにメラノーマ細胞が増殖する際働く酵素 MAPキナーゼを阻害する薬であるベムラフェニブ(商品名ゼルボラフ)も2015年2月から使用できるようになりました。
 日本では年間10万人あたり1.12人発症するとされる皮膚癌メラノーマは、発見初期から他臓器へ転移していることが多く、予後不良のがんとされてきました。最近の抗がん剤の研究で徐々に予後が改善されてきましたが、ベムラフェニブの他にもトラメチニブもいずれ承認され使用できるようになると、両者併用で67%のメラノーマに効果が見られることが報告されています。
 ガンの増殖を抑制する薬と免疫細胞を活性させてガンを退治する薬を併用して、両面からメラノーマを治療することが出来る現在、この病気と診断されてもがっかりしなくてもすむ時代になりました。(文責 院長・若杉 直俊)

オリンピックと感染症

 2020年東京オリンピック開催決定以後、明るい話題には事欠きませんがマイナス面があることも考えなければいけません。過去のオリンピックの経験から、開催時200カ国から1000万人以上の来訪者が予測されています。そこで問題になるのがテロと感染症です。テロはさておき、新興感染症といって前々回述べたMERSや新型インフルエンザ、エボラ出血熱やウェストナイル熱などまだ日本にない伝染疾患が心配です。
 すでにそれらは、このコラムで簡単に紹介しました。東京都はその対策として福祉保健局が中心となり、サーベイランスの強化・発生時の治療体制の構築を今から準備していると発表しています。特に夏の開催ですので、蚊が媒介するウェストナイル熱やデング熱の亜型(日本で流行しているのは血清型で1型ですが他に2-4型がある)の侵入が気になります。デング熱は複数の型に感染すると重症化するとされています。ワクチン開発がのぞまれる所です。
 オリンピックにかかわらず、東京ではさまざまな国際的なイベントが開催されます。埼玉県は東京に隣接する県として、未知の伝染疾患の全国的流行があればきわめて初期に危険が及ぶ地域です。行政の努力もさることながら、医療関係者のさらなる努力と住民の意識の向上がまたれるところです。(文責 院長・若杉 直俊)

小児の便秘

 便秘で悩むお子さんは多いようです。ほとんどの場合は成長とともに改善しますが、なかには治療が必要なこどももいます。絶対的治療が必要なHirschsprung病や低位鎖肛などはすぐにも専門医受診が必要ですが、ほとんどは家族の適切な処置で克服可能です。小児の便秘の要点は、①宿便をとること②下剤を使用した場合 自己判断で止薬しないこと③我慢をさせないこと でしょう。
 日本小児消化器栄養肝臓病学会のホームページ(www.jspghan.org)を開くと、一般の方向けにこどもの便秘のコーナーがあります。そのコーナーには、こどもの便秘の原因や症状、対処法などの詳細を綴ったパンフレットの電子版が掲載されています。それを読むと、便塊除去(ディスインパクション)の重要性や、生活習慣の改善、トイレトレーニングについてなど、みなさんが読んでもためになる記事が記載されています。治療に関しても、よく使用される薬剤名がでていますので参考になります。他にも日本トイレ研究所のホームページも参考にするとよいでしょう。
 専門医の受診を希望する場合のリストもでていますが、当院では近くにさいたま市立病院の小児外科外来のうち、排便外来が木曜午後にあるためそこへ紹介しています。もしこどもの便秘にお困りの方は、ご気軽に当院 医師・看護師に声をかけてください。
(文責 院長・若杉 直俊)

チクングニア熱

 最近マスコミなどによく登場する言葉に、チクングニア熱がありみなさん何だろうと思われたことありませんか。名前の通り熱が出る病気ですが、最近話題のデング熱同様蚊の媒介する疾患です。しかもそのベクター(媒介する生物)もデング熱と同様 ネッタイシマカやヒトスジシマカです。
 原因ウィルスは、トガウィルス科アルファウィルス族のチクングニアウィルスです。アジア・アフリカのほとんどの地域に分布しています。血清型は1種類(デング熱は4種類)です。症状はデング熱とほぼ同じですが、出血斑はでません。ほとんどは7-10日で回復しますが、時に数週間つづく関節痛が見られることがあります。
 診断は、血液検査でウィルスの存在をPCR法や抗体検査で証明することです。治療法は特別なものはなし。解熱剤・鎮痛剤で症状をやわらげます。ながびく関節炎も同様です。
 予防は、蚊に刺されないこと。そして病気を媒介する蚊の生息する水たまりを作らないこと。植木鉢の下に敷く水受けのなかの水が危ないとされています。蚊がきらう成分がディート(ジエチルトルアミド)とよばれるものです。市販されているほとんどの虫除けスプレーのなかに含有する成分です。ヒトスジシマカは日中に活動することが多いため、虫除けスプレーは夏の昼間の外出時、とくにこどもには使用したいものです。(文責 院長・若杉 直俊)

中東呼吸器症候群

 韓国で現在進行中のMERS中東呼吸器症候群についてです。2015年5月末までにMERS感染者は、中近東を中心に全世界で1149人の感染が報告され、そのうち431人の死亡が確認されています(WHOの報告から)。もちろんこの数は、韓国の3次感染の状況をみると、日々増加しているのが現状です。
 症状は発熱 咳 呼吸困難であり、下痢などをともなうこともあります。基礎疾患を持つ方が重症化しやすいようです。原因はマーズコロナウィルスで、数年前中国で一過性に流行したSARS(重症成人型呼吸器症候群)と同じグループのウィルスです。有効な治療法はありません。MERS流行地に赴いたときには、咳やくしゃみのある方との接触を避けることが重要です。またこのウィルスはラクダにも感染することが知られ、中東においてはヒトコブラクダに近寄らないことが重要です。
 それでもMERSを疑いえないときはどうするか。医療機関受診が重要ですが、必ず事前に医療機関へ電話連絡等行い受診の手続きをしてください。各都道府県の衛生研究所には、検査キットが配布されています。医療機関で採血・採痰等行い、陽性であれば指定医療機関に入院となります。治療は対症療法です。感染者全員が死亡する疾患ではありませんので、早めの対処がとても重要なのです。幸いまだ日本には上陸していません。備えあれば憂いなし、昔からの格言ですがMERSにも当てはまります。
(文責 院長・若杉 直俊)