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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

経口免疫減感作療法薬(2)

 以前にスギ花粉のアレルギーを、口腔内に投与して徐々にアレルギーを改善する薬の話をしました。使用上の注意として、スギが飛び交う1月以降4月一杯は治療開始を避けることや、急変に備えて午前中に薬を使用することなどです。今年から使用を開始した方々は、次のシーズンにその効果が実感できるはずですが、今日開設したいのはそのダニ版が2015年11月から発売されたことです。
 シオノギ製薬と鳥居薬品から、発売されました。当院は耳鼻科を標榜していないので、スギの治療薬の使用経験はありません。しかし、春季にはスギ・ヒノキのアレルギーによる目のかゆみや、鼻水・鼻づまりの患者さんがたくさん来院します。小児科・内科の医師でも安全に使用できるならぜひ治療を試みたいと思ってはいますが、さらにダニアレルギーに対する同様薬がでるということは、この治療がそろそろスタンダードになりつつあるのかもしれません。ただしくれぐれも気をつけて欲しいのは、通常の抗ヒスタミン薬内服と比べ副作用にも注意していただきたいということです。
 ダニアレルギーのある方は、室内の清掃をこまめにし湿気をこもらせないことが重要です。畳にカーペットを敷くと、その間にダニが多く繁殖します。しつこい咳やアトピーの原因がダニにあるとすれば、このクスリの検討もなされてもよいかもしれません。
(文責 院長・若杉 直俊)

Ⅰ型糖尿病

 11月25日 栃木で信じられない事件が報道されました。Ⅰ型糖尿病の7歳の男児が、祈祷師と称する男性に預けられ、適切な治療をうけることなくその短い命を閉じることになったのです。実は、同様な事件は過去何度も報道されています。
 男児の病気は1型糖尿病とよばれ、日本に1000万人以上いる成人型の糖尿病と違い、若年型ともよばれるタイプです。糖尿病は血液内の血糖が上昇し、この高血糖が血管を破壊しさまざまな合併症をおこします。代表的なものが、網膜症です。高血糖により血管の浸透圧が高まり、網膜出血や剥離をおこし失明します。次に腎症、腎臓は毛細血管の塊とも言えます。これが破綻して、腎機能低下 最終的には透析となります。最後に神経障害、しびれや運動機能低下もみられます。
 成人型の糖尿病は、まず生活習慣の改善です。運動と食事が大事です。それでもだめなら、血糖を下げる内服薬さらにインスリンの注射が必要です。ここ10年で糖尿病治療薬が飛躍的に開発され、さまざまな作用を持つものが使用できるようになりました。以前のコラムでも尿から糖を漏れ出させるSGLT-2薬の話題もとりあげました。さらに、ここ5ヶ月前から1錠のむと、1週間効果が持続する薬も使われ出し、低血糖の副作用もなくいずれこの内服のかたちが主流になりそうです。
 ところが1型糖尿病は内服薬では克服できません。血糖をさげるインスリンがほとんど分泌できず、インスリンの注射が必須となるのです。それをせずに、ただ見守るだけの今回の事件を検察が殺人行為と判断するのは、当然のことなのです。みなさんはこのような判断をすることはないでしょうが、このような不幸な事件が起きないよう、病気と判断されたら納得いくまで、医師と相談してください。(文責 院長・若杉 直俊)

流行性角結膜炎

 はやり目、トラコーマ、ものもらい。流行性の目の病気は学校や幼稚園で急速に広がるために、注意が必要です。1969年アポロ11号が月面に到着した年、このはやり目が日本中で広がりました。原因はアデノウィルス8型で、そのニュースからアポロ病ともいわれました。あれから50年、今年この流行性角結膜炎が全国的に流行しています。(国立感染症研究所ニュースより)
 9月28日から10月4日までの週の全国患者報告数は、眼科定点医療機関あたり1.09人ですが、一番多い宮崎で8.33人 以下熊本7.56 鳥取6.0 福岡3.15です。関東では群馬1.86 茨城1.41 でした。埼玉県全体では1台ですが、地域的には熊谷が4.0 朝霞が3.75という数字が出ています。警報レベルは一定点あたり8人です。浦和医師会の感染症報告でも、徐々に数字が上昇していますから岩槻でも要注意です。
 症状は結膜の充血です。感染力が強いために、家族に一人発症者がでると全員に広がります。目をぬぐうと手にウィルスが付着し、ドアノブなどに触れた後他人がそれをさわり感染が拡大します。したがって、感染者および周囲の者はよく手を洗う必要があります。目をぬぐったティッシュペーパーなどは、すぐにポリ袋などに捨てなければいけません。少しでもこの結膜炎を疑えば、すぐに眼科に行って治療が必要になります。
 幼児や学童では、学校を休む必要もあります。くれぐれも感染拡大に注意が必要です。(文責 院長・若杉 直俊)

モルヒネってこわいの?

 ガンの罹患が男性で2人に一人、女性で3人に一人の時代です。がんが身近になりました。早期発見早期治療が重要なのはいうまでもありませんが、不幸にして進行癌と診断された場合、最後の痛みのコントロールにモルヒネが使用されます。ところがモルヒネの使用は欧米ではガン以外でも用いられています。日本ではなじみがないのですが、神経難病特にALS(2014年8月26日のコラム参照)の痛みに使用されているのです。北里大学神経内科の荻野美恵子講師がインターネットでも、一般の方にわかりやすく解説しています。(www.als.gr.jp/saff/seminar49/seminar49_02.html)
 ALSの末期の苦しさは、呼吸に関するものです。気管切開をした場合でも呼吸苦を訴えることがあります。その苦しみに対してモルヒネの使用が検討されるのです。同様に肺気腫の患者さんでも同様な苦しみが生じます。ところが日本では非ガン疾患へのモルヒネ投与は保険適応になっていません。さらに問題のが、多くの医師がこの点を考慮していないのです。
 当院では在宅医療に力を入れているために、ガンの末期にモルヒネを使用することが多いのですが、当院でも非ガン疾患への使用経験はありません。人生の最後を苦しみの中で迎えることは、緩和医療の立場では厳に避けなければいけないことです。筆者としては荻野博士の問いかけを医療界全体で受け止めるべきと考えています。
(文責 院長・若杉 直俊)

2015年ノーベル医学生理学賞

 今年もノーベル賞の季節がやってきました。大村智博士 受賞おめでとうございます。前のコラムで大隅博士の話もしましたが、大村博士もガードナー賞の栄誉に2014年輝いています。博士の業績は、報道されたとおりオンコセルカ症の原因となるフィラリアの駆除薬の発見です。といっても直接薬を見つけたのではなく、抗菌薬を作り出しうる放線菌(2015年1月19日のコラム参照)の分離に成功し、薬の前駆物質エバーメクチンを発見しました。その物質を共同受賞者のW・キャンベル博士がヒトにも家畜にも効く物質へと合成して、イベルメクチンとして製剤化しました。
 もう一人の中国女性科学者屠博士は、まだ中国が発展段階にある30年前に漢方のオウコウカから抽出したアルテミシニンが、マラリアに効果があることを発見し人類へ大きな寄与をしたことが受賞の理由です。世界で一番怖い生物は何?と聞かれた場合、それはライオンでもなくワニでもなく、蚊がそれであると答えます。それはマラリアをはじめデング熱や多くの感染症の媒介しヒトを死においやるからです。ちなみにオンコセルカ症はブユがその媒介動物です。キャンベル博士の属したアメリカのメルク社は無償でこの薬を流行地の人々へ配布しこの病気を撲滅しました。アルテミニシンもマラリアの治療に多いに用いられています。
 人類に大きな貢献をした今年の賞は、例年とは異なりさわやかな印象を与えたようです。(文責 院長・若杉 直俊)