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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

認知症簡易検査

2016年8月から、さいたま市在住の65歳・70歳・75歳・80歳(年度内にこの年齢になる方も含む)の方を対象に、希望者が簡便な認知症検査をうけることが出来るようになりました。
 さいたま市内の医療機関で、物忘れ相談医を標榜している医療機関において対象の希望者は、無料でこの検査をうけることができます。もちろん当院でも実施可能です。認知症の検査で有名なのが長谷川式痴呆スケールで、この簡易版が通常行われます。今回さいたま市で採用されたのは、そのさらにその簡易版で5分ほどで実施可能です。ほかにもMMSE検査などがあります。
 そこで疑い有りとされた場合、認知症専門医へ紹介され診察・CT検査などが行われます。ご家族に認知症が疑われる方がいる場合、ぜひお気軽にご相談ください。
 認知症には、アルツハイマー型、前頭側頭葉型、レビー小体型、脳血管型などがあります。さらに、治療可能な慢性硬膜下血腫や甲状腺低下症、うつ病なども認知症状をきたすため専門医による診断が欠かせません。その際なるべくご家族の方が帯同して来院されるよう御願いしています。認知症の行動面で問題がある場合、なかなか本人からは聞き出しにくいからです。今後人口の高齢化により700万人の認知症患者が予測されています。オレンジプランのお話もかつて掲載しましたが、対象年齢で気になる方はぜひ検査をうけてください。(文責 院長・若杉 直俊

神経性食思不振症

 国内に把握されているだけで26000人の患者がいる病気です。女性に多く、思春期に発症します。極端な食事量の低下や食べても食べても嘔吐を繰り返すために、体重がどんどん低下し適切な介入なしでは、最後は餓死する病気です。かつてアメリカの兄弟歌手カーペンターズの女性ボーカル カレン・カーペンターがこの病気でなくなりました。
 先日ドキュメンタリー番組で、この病気により刑務所に収監されている女性がが多いことを取り上げていました。日本国内には4カ所の女性専用の刑務所があり、そのなかの北九州刑務所が取り上げられていました。すべての例でみられるわけではないのですが、スーパーなどで食品を購入しても、結局嘔吐してしまうためお金を払うことに無駄を感じる患者さんが金を払わず万引きをして持ち帰り、その常習性により収監されるというのです。
 この病気の病理として、大人になることを拒否する心理が背景にあるという精神医学者が多いようです。また、幼少期の親子関係 特に母親との関係にゆがみを持つ例も多くみられます。さらに食行動としては、拒食の逆である過食(ブリミア)がみられることもあります。犯罪に走る神経性食思不振症は論外としても、この病気を見過ごすことは死にもつながりますし、若い女性では無月経になりこどもを欲しても不妊症となります。本人は病識がないケースが多いため、周囲の目が必要な疾患です。(文責 院長・若杉 直俊)

高齢者の水痘ワクチン

 水痘は、こどもでまだ罹患していない児が水痘患者に接触して、全身に水疱をきたす疾患です。昨年から3歳未満の小児へ公費でワクチンが開始されたために、急速に外来患者が減ってきました。「風が吹けば桶屋が儲かる」式の推論ではないのですが、これから成人の帯状疱疹が増加するかもしれません。
 帯状疱疹は、子どもの頃水痘にかかったほとんどの方が脊髄の感覚神経節細胞中にウィルスをしのばせ、体調不良などによる免疫力の低下にともなって発症する疾患です。80歳までに日本人3人に1人が発症するとされています。水痘に対する免疫力が持続している間は発症しないのですが、実は免疫力維持のためには常日頃の生活の中で水痘ウィルスに遭遇していることが肝要なのです。このことを医学的にはブースター効果といいます。
 ところがこどもの水痘発症がワクチンで抑制されつつある今、成人が水痘ウィルスと接触する機会が激減するのは自明です。そこで帯状疱疹が増えるのではないかと心配されているわけです。どうしたらよいのでしょうか。マスコミでも取り上げられているのが、成人の水痘ワクチンによる帯状疱疹予防です。
 水痘ウィルスの抗体価が一定以上ないと帯状疱疹にかかる可能性があるために、その抗体価を維持するために成人の水痘ワクチンが検討されているのです。その費用は、1回約1万円ほどです。回数や時期に関してはまだ明確な規定がされていません。しかし60歳をすぎてまだ帯状疱疹を発症していない方は、ぜひ検討するべきではないでしょうか。当院でも希望する方には、接種をすすめています。
(文責 院長・若杉 直俊)

食物アレルギー検査の新潮流

数年前東京三鷹でおきた給食によるアレルギー関連の事故は,皆様の記憶に残っていることと思います。食餌アレルギーに関しては、その診断も難しく治療も突然のため、医療機関でだされる携帯型注射器も十分に使用されないケースも目立ちます。
 それらの事故を防ぐためには、食餌アレルギーがある場合それをいかに除去するか、あるいは減感作させるかが重要です。除去の場合は医療機関と学校給食関係者との緊密な連携が大切で、減感作の場合は厳密な観察下での治療法が重要です。
2016年6月17-19日開催された日本アレルギー学会で、同愛記念病院小児科の白川先生は新しい減感作療法 経皮免疫療法(EPIT)の13例を報告し、よい成績が得られたことを報告しています。この療法は、Dupontによりすでに報告されていますが(J Allergy Clini Immunol 2010:125:1165-1167)、世界的にはあまり行われていません。むしろ経口免疫療法(OIT)が広く世界的に行われています。
EPITは食事内容を皮膚に貼り付け、徐々にアレルゲンに慣れさせる治療法で、OITはごく少量から食事を経口的に摂取させ、徐々に増量し減感作をはかるものです。OITに関しては別の機会で解説しますが、副作用の危険はOITのほうがはるかに高いようです。EPITの副作用は13例中皮膚が赤くなるなどのほかは、全身的な副反応はなかったとのことでした。白川先生はOITも実施していますが、OITが初めから導入できない症例や、継続出来ない例にEPITが有効であろうと結論づけています。まだまだEPIT施行施設は少ないと思いますが、ご参考までに。(文責 院長・若杉 直俊)

大腸の遺伝性腫瘍

 このコラムの第1回にアンジェリーナ・ジョリーと乳癌遺伝子のお話をしました。多くの方々から、ほかにも遺伝とガンについて何かあれば教えてください、という要望がありました。そこで今回は、大腸癌にまつわるお話をします。
 この点で有名な疾患が①家族性大腸腺腫症(Familial adenomatous polyposis 以下FAPと略す)と②リンチ症候群でしょう。
 ①FAPの診断は、内視鏡で大腸に100個以上の腺腫があるか、腺腫の数が99個以下でもFAPの家系のある人とされています。FAPの家系は2-3万人に1人に出現し、FAPによる大腸癌は全大腸癌の0.5%未満とされています。遺伝学的検査をすると80%にAPC遺伝子の異常がみられます。またFAPと診断されると大腸以外の臓器にも腫瘍発生の危険があるとされています。
 ②リンチ症候群は、遺伝的に大腸癌が多い家系で、遺伝子検査を行いMLH1,MSH2、MSH6,PMS2などの遺伝子がみつかると診断されます。簡便なスクリーニング検査としてマイクロサテライト不安定性(MSI)検査があります。臨床的な特徴は全くないため、家族歴の聴取から疑う疾患です。
 今回のコラムは、みなさまの不安をあおるために掲載しているのではありません。遺伝性乳癌の際にも書きましたが、家系にそれら癌患者が多い場合みなさんがどのように考えたらよいかを伝えたいがためです。その相談をしたいという方は、ぜひ全国遺伝子医療部門連絡会議のホームページ(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)を開いて欲しいと思います。もちろん、医学界でもそのような患者さんたちの不安を取り除く画期的な治療を現在探っている事実もあわせてお伝えしておきましょう。
(文責 院長・若杉 直俊)